弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

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スポーツ法

なくならないスポーツにおける暴力①

1 はじめに

 2022年8月に、埼玉県本庄市の私立中学校剣道部の元顧問が生徒に対する暴行容疑により逮捕されたとの報道(事件①)、9月には、長崎県諫早市の市立中学校女子バレー部の顧問が部活動中の複数の生徒に対する体罰により文書訓告を受けた後、再発防止の研修受講中にさらに暴力・暴言を行ったとの報道(事件②)、10月には、兵庫県姫路市の私立女子高校ソフトボール部の顧問が部員に対する暴力により顎が外れる傷害を負わせたとの報道(事件③)、11月には、福岡県福岡市の私立高校剣道部の元顧問の暴力・暴言により女子部員が自殺(2020年)した事件に関し学校と遺族の間で和解が成立したとの報道(事件➃)がありました。

 

 10年前の2012年後半に起きた、大阪市立桜宮高校のバスケットボール部キャプテンが顧問の暴力等により自死した事件、および日本女子柔道代表選手が監督等の指導者の暴力等を告発した事件により、スポーツ界では暴力・暴言・ハラスメント等を根絶しようという機運が高まりました。翌年4月には、統括4団体により「スポーツにおける暴力行為根絶宣言」が出され、統括4団体や中央競技団体に相談窓口が設置され、指導者研修において暴力周知徹底が図られてきました。それにもかかわらず、スポーツの現場では、未だに暴力はなくなっていません。

 

 私は、統括団体や中央競技団体で、相談窓口や処分手続に関わっており、指導者研修の講師も数多く担当していますが、暴力を振るう指導者は少なくなってきている実感があり、実際に、日本スポーツ協会の相談窓口(「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」)の相談件数において暴力の割合は減少しています。にもかかわらず、上記のように毎月のように暴力に関する報道があるのは、これまでは隠れていた案件が、暴力等を許さないという社会的風潮もあり、顕在化してきたものと考えられ、このこと自体はポジティブに捉えてよいものと考えます。今後も引き続き、指導者や保護者等の関係者に対する啓発活動を繰り返しながら、不適切行為案件の把握に努め、これらの案件において行為者に適切な処分を科すとともに、そこから得られた教訓を啓発に活かすというサイクルを地道に実践していくことが必要だと考えています。

 

 本欄では繰り返し指導者による暴力や不適切行為の問題を採り上げていますが、今回は上記事件について、それぞれ気付いた点をコメントしていきたいと思います。そして、これらのコメントが被害に遭っている方々の参考になれば幸いに思います。なお、本稿では暴力=暴行としております。

 

2 事件①について

⑴ 学校の中の暴力でも逮捕されることもある

 事件①について、報道によれば、2021年12月28日から29日の間、埼玉県本庄市の私立中学校の体育館で、元顧問は、剣道部の指導中、部員の男子生徒の顔面を素手でたたいたり、竹刀で脇腹や喉を突くなどしたりして、複数回の暴力を加えた容疑で逮捕されたということです。続く報道では、元顧問は略式起訴され、罰金20万円の略式命令を受け、また同校からは停職3か月の懲戒処分を受けていたが、その後依願退職したということです。

 

 ここで大切なことは、暴力は刑罰法規に触れる違法な行為であり、学校の中であっても逮捕され有罪判決を受けることもあり、当然のことながら学校は教員が何をしても責任を問われないアンタッチャブルな場ではないということです。事件①では結果的に、略式起訴の上、罰金20万円という有罪判決を受けています(罰金は刑事罰であることに注意)が、逮捕されるインパクトの方が大きいかもしれません。

 

⑵ 許される体罰などない

 WEB上では、部活動中の暴力に関し、暴力は、暴行罪に該当する行為で、体罰ではないといったコメントが見受けられます。これはコメントをした方が暴力の罪深さを示すためのレトリックなのでしょうが、正確には、暴力は暴行罪(刑法第208条)の構成要件に該当する違法な行為であり、体罰(学校教育法第11条ただし書)にも該当する違法な行為です。

 

 懲戒権(不適切なことをした児童生徒を戒める権限)の行使において、わずかに有形力の行使に類する行為が認めらます。たとえば、「放課後等に教室に残留させる」あるいは「授業中、教室内に起立させる」といったものです。あるいは正当防衛や緊急避難の成立する状況では有形力の行使が認められますが、これも限られた場面においてのみ認められ、過剰な有形力の行使となれば違法となります。

 

 私が強調しておきたいことは、「許される体罰」と「許されない体罰」があるのではなく、一切の体罰は違法であり、「許される体罰」はなく、懲戒権の行使の範囲内で有形力の行使に類する行為が認められるにとどまります。加えて、懲戒権は、子どもが不適切なことをしたため、これを戒めるために行使されるものであり、部活動において顧問が指示したプレーができないことを根拠に行使することはできないのです。

 

⑶ あらためて体罰とは

 学校教育法における体罰の定義についての文科省の見解を以下に掲載しておきます。

「児童生徒への指導に当たり、学校教育法第11条ただし書にいう体罰は、いかなる場合においても行ってはならない。教員等(校長及び教員)が児童生徒に対して行った懲戒の行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要があり、その懲戒の内容が身体的性質のもの、すなわち、身体に対する侵害を内容とする懲戒(殴る、蹴る等)、被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒(正座・ 直立等特定の姿勢を長時間にわたって保持させる等)に当たると判断された場合は、体罰に該当する。」(問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知)平成19年2月5日初等中等教育局長通知(18文科第1019号))

 

 ここから、体罰には殴る・蹴るなどの明白な行為もあるが、その場の状況により判断しなければならない行為もあるということ、法律上は、懲戒権を有する者だけについて体罰が問題になり、懲戒権を有しない一般のスポーツクラブの指導者が体罰を行うという概念はないことがわかります。

 

*次回以降、事件②~④について順にコメントします。

 

 

スポーツ仲裁を検討しているアスリートへ②

1 はじめに

 前回は、スポーツ仲裁とはどのようなものかを述べました(スポーツ仲裁を検討しているアスリートへ①)。今回は、申し立てる際にはどのような注意点があり、どのような点を検討すべきなのかについて述べます。

 なお、仲裁申立のための要件を吟味する段階を「本案前」いい、申立の中身(申立の趣旨)について判断する段階を「本案」といいますが、本案前と本案に分けて検討します。

 

2 本案前(仲裁申立のための要件を吟味する段階)の注意点

(1) ターゲットを何にするのか?

 スポーツ仲裁規則(以下、単に「規則」)第2条第1項に「この規則は、スポーツ競技又はその運営に関して競技団体又はその機関が競技者等に対して行った決定(競技中になされる審判の判定は除く。)について、その決定に不服がある競技者等(その決定の間接的な影響を受けるだけの者は除く。)が申立人として、競技団体を被申立人としてする仲裁申立てに適用される。」と定められており、「何に対しても」スポーツ仲裁を申し立てられるわけではない点に注意が必要です。

 すなわち、「競技団体又はその機関(以下「競技団体等」)が競技者等に対して行った決定」に対して「競技者等」が申し立てられるのです。

 ここで「競技団体」とは、①公益財団法人日本オリンピック委員会、②公益財団法人日本体育協会(現日本スポーツ協会)、③公益財団法人日本障害者スポーツ協会(現日本パラスポーツ協会)、④各都道府県体育協会(又は都道府県スポーツ協会)、⑤前4号に定める団体の加盟若しくは準加盟又は傘下の団体を指します(規則第3条第1項)。

 よって、「競技団体」に該当しないスポーツ団体がした決定に対して申立はできないということになります。

 以上から、スポーツ仲裁申立のターゲットは、「競技団体等競技者等に対して行った決定」ということになります(「競技者等」については次項参照 )。

 ただし、「決定」と一口にいっても、どの「決定」をターゲットにするかの判断は容易ではないこともあります。たとえば、代表選考に関わる申立をするとしても、代表選考基準に対して申し立てるのか、代表選考大会の開催に対して申し立てるのか、選考大会を経て選考結果に対して申し立てるのか、といったように段階毎にターゲットとなる決定が異なってきます。

 また、競技団体等が行った決定であったとしても、競技中になされる審判の判定は除かれるので、この点でも注意を要します。

(2) 誰が申立人となれるのか?

 前述したように、規則第2条第1項によれば、競技団体等の競技者等に対する決定について競技者等が申し立てられることになります。

 そして、規則第3条第2項には「競技者等」の定義があり、「スポーツ競技における選手、監督、コーチ、チームドクター、トレーナー、その他の競技支援要員及びそれらの者により構成されるチームをいう。チームは監督その他の代表者により代表されるものとする。競技団体の評議員、理事、職員その他のスポーツ競技の運営に携わる者を除く。」とされています。

 ここでの注意点は、「競技団体の評議員、理事、職員その他のスポーツ競技の運営に携わる者を除く」という点です。たとえば、競技団体において、役職員に対して何らかの決定があったとしても、スポーツ仲裁の申立はできないということになります。私がよく受ける相談として、あるスポーツ団体の役員が役員人事について不服がありスポーツ仲裁を申し立てたいというものがありますが、このような申立はできないということになります。

(3)  仲裁合意を得られるか?

 スポーツ仲裁も「仲裁」ですから、申立人と被申立人の間で仲裁の手続により紛争解決を目指すとの合意が必要となります。ただし、スポーツ仲裁においては、申立人となり得る競技者等と被申立人となる競技団体との力の差は歴然としており、被申立人が仲裁合意をしないこともあるので、当事者間の公平性の確保の観点から、予め競技団体においてスポーツ仲裁を申し立てられたら必ず応じるとの自動応諾条項の採用が奨励されています(残念ながら法的義務まではありません)。

 よって、申立を検討する際に、自動応諾条項の確認は必須であるといえます(参考:仲裁条項採択状況(JSAA))。なお、中央競技団体(NF)に関しては、スポーツ団体ガバナンスコード原則11(1)「NFにおける懲罰や紛争について、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構によるスポーツ仲裁を利用できるよう自動応諾条項を定めること」とされています。

  したがって、申立をする前に、規程類をリサーチし、自動応諾条項の有無をチェックしなければなりません。自動応諾条項が見つからないとしても、申し立てることはできますが、被申立人が応諾しなかった場合は、手続は終了となってしまいます。なお、この場合、JSAAがその旨を公表することになっています(例:不応諾による手続終了)。

 

3 本案(申立の中身(趣旨)について判断する段階)に関する検討事項

 ⑴ 仲裁パネルが採用する判断基準

 本案において殆どの仲裁パネル(担当仲裁人)が採用する判断基準は以下のとおりです。

「日本スポーツ仲裁機構における過去の仲裁判断では、日本においてスポーツ競技を統括する国内スポーツ連盟については、その運営に一定の自律性が認められ、その限度において仲裁機関は、国内スポーツ連盟の決定を尊重しなければならないから、仲裁機関としては、

(1)国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合、

(2)規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合、

(3)決定に至る手続に瑕疵がある場合、又は

(4)国内スポーツ連盟の制定した規則自体が法秩序に違反しもしくは著しく合理性を欠く場合

 において、それを取り消すことができる」

⑵ 判断基準に沿った戦略

 この判断基準は近時では殆どの仲裁パネルが採用しており、判断基準に沿った主張・立証をしていくことが必要となります。

 判断基準では、NFには自律性が認められ、その限度において仲裁機関は、NFの決定を尊重しなければならないとしており、NFに一定の裁量を認めている点に注意する必要があります。すなわち、決定自体の当否が判断されるわけではなく、裁量の逸脱があるのかないのかが判断されるのであり、ただ当該決定が不当であるということを主張しても取り消される可能性は低いということになります。

 よって、当該決定は裁量の範囲を逸脱していること、すなわち判断基準の⑴~⑷(以下「4要件」)に該当することを主張・立証することになります。

 なお、4要件について、全ての要件に該当する必要はなく、1つでも該当すれば取り消されますが、複数の要件に該当する可能性があるのであれば、いずれも主張・立証することが戦略的にはよいといえるでしょう。

 

3 おわりに

 これまで述べてきたように、アスリートにとって、スポーツ仲裁において越えていかなければならないハードルは少なくありません。よって、アスリートの側で、これらのハードルを越えていけるのか、予めよく吟味する必要があります。負ける勝負に時間やコストをかけても仕方がないからです。

 とはいえ、ときにスポーツ仲裁はアスリートにとって強力な武器となります。様々な要素を勘案して、申し立てるとなれば、迅速かつ準備万端にスポーツ仲裁を申し立てていただければよいと思います。

 

 

 

スポーツ仲裁を検討しているアスリートへ①

1 はじめに

 この度、スポーツ仲裁の申立人代理人を務めさせていただき、(公財)日本スポーツ仲裁機構(JSAA)の仲裁パネルから、中央競技団体(NF)の決定の取消し(「当該大会を日本代表選手選考会とするとの決定を取り消す」)の仲裁判断をもらうことができました(JSAA-AP-2022-007~011)。相談を受けて4日後にスポーツ仲裁を申し立て、その更に4日後に仲裁判断をいただきました。このようなタイトなスケジュールとなったのは、当該大会が10日後に迫っていた事情があり、緊急仲裁となったためです。結果的に、申立人であるアスリート達の言い分が認められ、その思いが届いて安堵しています。

 私は、大学で、スポーツ推薦により入学した学生の方々に向けたスポーツ法の講義を担当していますが、スポーツ仲裁を知らない人が大多数です。また、トップアスリートでも、スポーツ仲裁を知らない人の方が多いのではないでしょうか。これはNFなどが、スポーツ仲裁に関する教育をしたり、インフォメーションを提供したりすることがないからだといえます。そして、ほとんどのアスリートは、仮にスポーツ仲裁を知っていても、スポーツ仲裁どころではなく、トレーニングに励みたいというのが本音だと思います。

 しかし、ときにNFの決定を覆すというような強力な威力をもつ、スポーツ仲裁という選択肢を頭の引き出しに持っておいて損はないと思います。

 そこで、本欄では2回に分けて、先ずは、スポーツ仲裁というものを知ってもらい(第1回)、申し立てる際にはどのような注意点があり、どのような点を検討すべきなのかを考えたいと思います(第2回)。なお、従前にも本欄でスポーツ仲裁を紹介しています(「スポーツ仲裁って?」)が、2013年に書いたもので、かなり時間が経過していますので、以下では、内容をアップデイトして述べます。

 

2 スポーツ仲裁とは

⑴ 不服をどこに申し立てるか?

 「アスリートとして、スポーツ団体が行った決定に対して不服がある場合、どのようにしますか?」という問いに対して、アスリートのほとんどは「我慢します」と答えるのではないでしょうか。

 ところが、たとえば、代表選考基準によれば自分が代表選手として選考されるはずなのに選考されなかったということになれば、我慢するでは済まされないものと思います。

 そのようにスポーツ団体が行った決定を看過できない場合には、先ずはスポーツ団体と話をする、あるいは交渉するということが考えられます。

 しかしながら、ほとんどの場合は、スポーツ団体とアスリートとの力関係に大きな差があることから、取り合ってもらえないことも多いと思われます。

 よって次の手立てとしては、第三者に判断してもらうということが考えられます。

⑵ 裁判所に訴える

 アスリートの不服に関して、第三者の力を借りざるを得ない場合、その第三者として、もしかすると裁判所が思い浮かぶかもしれません。

たしかに裁判所に訴えるという選択肢もありますが、以下のようなデメリットがあります。

  ・時間がかかる(長い場合には数年を要することもある)。

  ・費用がかかる(通常、スポーツ仲裁と比べれば費用がかかる)。

  ・請求の当否の判断(本案)に入る前に却下される可能性がある。*

 このようなデメリットもあるとはいえ、裁判という手段も有効ですから、スポーツ仲裁と比較をして、いずれの手段をとるのか、よく検討する必要があります。

⑶ スポーツ仲裁を申し立てる

 スポーツ仲裁では、上述したような裁判所に訴えたときのデメリットはかなり解消されます。

ア 短時間で解決してもらえる

 時間的な制約がある場合には、申立人の時間的な希望にできる限り応じてもらうことができます。また、かなりの緊急性がある場合には、緊急仲裁(スポーツ仲裁規則第50条)として迅速に判断してもらうことができます。上述した、私が申立人代理人を担当した事件では、緊急仲裁とされ、申立の4日後に仲裁判断(骨子)をもらいました。

 また、仲裁判断は最終的なものであり、当事者双方を拘束する(同規則第48条)ので、裁判のように上訴されることがなく、そこで決着します。この観点からも裁判と比較して短時間で解決することがわかります。

イ 費用が安価である

 スポーツ仲裁を申し立てる場合の費用については、必ず必要なものとして申立料金があります。「申立料金」とは、仲裁を申し立てるにあたって、申立人がJSAAに対して支払うもの(スポーツ仲裁料金規程第2条)で、50,000円(税別)とされています(同規程第3条)。申立料金については、アスリート保護の観点から、比較的安価に設定されています。また、申立が認められた場合には、原則として、被申立人の負担となり、返金されます。なお、申立が認められなかった場合は、通常は申立人の負担となりますが、稀に、申立料金を按分負担したり、被申立人の負担とされたりすることもあります(スポーツ仲裁規則第44条第3項参照)。

 弁護士費用については、代理人となる弁護士との合意により額が決まります。被申立人が代理人をつけることも多いこと、スポーツ仲裁には専門的知識が必要なことから、申立をする際にはできる限り代理人をつけることをお勧めします。その際、JSAAには手続費用の支援制度(手続費用の支援に関する規則)がありますので、同制度を使うことを検討することも一案です。申立人となるアスリートは、資力に乏しいことも多く、私が代理人であったときにも、同制度を使わせていただきました。

ウ 裁判で判断してもらえないことも判断してもらえることがある

 裁判において、本案に至らず却下されてしまうような事件でも、スポーツ仲裁では判断してもらえる可能性があります。たとえば、スポーツ団体が代表選考に関わる決定をしても、それは団体内部の事柄として団体内部で解決すべきとして、裁判所に却下される可能性がありますが、スポーツ仲裁では迅速に判断してもらうことができます。

 なお、次回に述べますが、裁判とは別に本案前に気を付けるべきことがありますので留意して下さい。

 

3 小括

 以上のように、アスリートにおいてスポーツ団体の決定に不服がある場合に、その解決の一手段としてスポーツ仲裁があることは選択肢として是非とも覚えておいていただけるとよいと思います。

 次回は、スポーツ仲裁を申し立てるにあたって、事前に検討すべき事項について述べます。

 

*却下の理由として部分社会の法理(自律的な団体内部の紛争には司法権が及ばないとする法理)などがあります。

 

 

スポーツ団体の利益相反について③

1 はじめに

これまで、利益相反や利益相反取引の定義、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(以下「一般法人法」)に関し「スポーツ団体の利益相反について①」において、「公益認定社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下「公益認定法」)に関し「スポーツ団体の利益相反について②」において、整理をしてきました。

今回は、前2回を受けて、中央競技団体(NF)向けスポーツ団体ガバナンスコード(GC)について、みていきたいと思います。

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GC原則8 利益相反を適切に管理すべきである。

(1) 役職員、選手、指導者等の関連当事者とNFとの間に生じ得る利益相反を適切に管理すること

(2) 利益相反ポリシーを作成すること

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GC原則8(GC8)については上記のとおりです。

先ず、GC8(1)において、利益相反の管理の対象者として、理事のみならず、監事、職員、指導者等の関連当事者が挙げられている点に着目すべきでしょう。

次に、GC8は、利益相反の「利益」の内容として、経済的な利益のみならず、大会への出場資格の付与、団体登録、各種選手の選考まで含まれるようにも読める点にも注意する必要があります。

さらに、GC8(2)における利益相反ポリシーの作成に当たっては、「利益相反取引該当性」及び「利益相反の承認における判断基準」という2つの基準を策定するように求めている点にも着目する必要があります。

 

2 管理すべき対象者の範囲

GC8(1)は、「役職員、選手、指導者等の関連当事者」とNFとの間に生じ得る利益相反を適切に管理することとしています。

また、GC8「補足説明」において、「利益相反取引該当性を定めるに当たっては、理事が所属する他の企業・団体、理事の近親者等の形式的な基準に加えて、理事が懇意とする取引先等、当該NFにおいて想定される『利益相反的関係』を有する者(関連当事者)についても、実情に照らし適切に該当範囲に含めることが望まれる。」とされています。

このように「関連当事者」については、「理事が懇意とする取引先」という例が示されており、その該当性について実質的に判断するよう求めている一方で、「基準の明確性が損なわれないように留意することが望まれる」ともされています。

「関連当事者」は、前回検討した公益認定法における特別利益供与禁止の対象者と重なり合いが多いといえるものの、特別利益供与禁止の対象者については、法律、施行規則、施行令で詳細かつ厳格に決められていること(「スポーツ団体の利益相反について②」参照)と比べれば、相当曖昧であるといわざるを得ません。

 

3 管理の対象となる利益相反

一般法人法の利益相反の規制が経済的な利益相反に限られていることは、「スポーツ団体の利益相反について①」で検討してきたとおりですが、GC8が求める「利益相反」が利益相反取引に限られているのかは明確ではありません。

というのも、GC8「求められる理由」の冒頭で、NFが有する重大な権限として「大会への出場資格の付与、団体登録、代表の選手選考と始めとする各種選手の選考等」を挙げ、これらの権限の適正な行使を担保し、国民・社会からの信頼を醸成するために、利益相反への適切な対応が重要であるとしており、これらの記載から、経済的利益に限らず「大会への出場資格の付与、団体登録、代表の選手選考と始めとする各種選手の選考等」をも含めた利益に関し管理することを求めているようにも読めるからです。

これらを「利益相反」という概念で捉えて、利益相反ポリシーに基づき管理すべきものなのか、検討する必要があります。

 

4 利益相反取引該当性基準と利益相反承認判断基準

GC8「補足説明」において、「利益相反ポリシーの作成に当たっては、どのような取引が利益相反関係に該当するのか(利益相反取引該当性)、どのような価値判断に基づいて利益相反取引の妥当性を検討すべきか(利益相反の承認における判断基準)について、当該団体の実情を踏まえ、現実に生じ得る具体的な例を想定して、可能な限り分かりやすい基準を策定することが望まれる。」とされています。

ここから分かることは、利益相反ポリシーにおいては、「利益相反取引」について、承認が得れれば取引が許容されるという点と、利益相反を適切に管理するために、利益相反取引該当性判断の段階と利益相反承認判断の段階の2段階で基準を設定するよう求めている点にあります。

 

5 法律による規制とGC8

前々回「スポーツ団体の利益相反について①」において検討した一般法人法と前回「スポーツ団体の利益相反について②」において検討した公益認定法と、上述したGC8について整理すると以下のようになります。

一般法人法 公益認定法 GC8
内容 利益相反取引規制 特別利益供与禁止 利益相反*の管理
管理対象者 理事 公益認定法特別利益供与
禁止対象者
関連当事者
管理方法 理事会承認あれば許容 特別利益供与の禁止 ●利益相反取引**:
理事会承認あれば許容
●その他の利益相反***:
禁止or承認あれば許容?

註*)GCが管理すべき利益相反は、利益相反取引のみか、その他の利益相反(代表選考等)を含むのか

註**)GCにおいて管理すべき利益相反取引の対象者は理事のみか、関連当事者か

註***)その他の利益相反の管理方法は、理事会承認により許容するか、禁止か

 

6 GC8に関する検討(私見)

以下、註*、**、***に関し、以下、若干の検討を加えます。

(1) GC8が求める管理すべき「利益相反」(註*、註***)

たとえば、NFにおいて、代表選考基準を作成する場合や代表選考基準に基づいて代表選考をする場合(特にNFの裁量がある場合)に、代表選考基準作成権者や代表決定権者に選考の対象者が入っていたり、当人でなくとも代表選考される人の妻や親(これらを「利害関係人」といいます)が入っていたりすると、それらの人は公平・公正な判断ができないと考えられることから、適切ではないといえるでしょう。

このように、NFが利益相反取引以外の利益相反(代表選考等)を管理しなければならないことは間違いがありませんが、これらを利益相反ポリシーで管理するのか否かは、NFの判断によると考えられます。個別の規程、代表選考でいえば代表選考規程の中で、利害関係人を代表選考手続に関わらせないといった定めを置くことも一案だと考えます(註*)。

なお、利益相反取引以外の利益相反については、理事会の承認により許容されるとするのではなく、公平性・公正性の観点から、一律に利害関係人の関与を禁ずるのが妥当であると考えます(註***)。

 

(2) 利益相反取引規制の対象者(註**)

GC8によれば、利益相反取引規制の対象者を理事以外の関連当事者にも広げるのか明らかではありませんが、利益相反取引規制の対象者は理事に限定し、利益相反取引に関し、予め策定した判断基準に則り理事会が承認の判断をすれば当該取引は許容されるものとするのが妥当と考えます。

これは一般法人法の規制と同じですが、理事会の承認の基準として、GC8の求める2つの基準により判断するというものです。

利益相反取引規制の対象者を理事に限定するのは、理事はNFの意思決定機関である理事会のメンバーであり、議決権を有するのであり、理事以外の議決権を有しない職員やNF関係者にまで対象者を広げる必要性が少ないと考えられるからです。

たとえば、職員が代表取締役を務める会社とNFが取引をするとしても、NFの職員はNFの意思決定について原則として関与できない以上、利益相反取引規制の対象にする必要がないのではないでしょうか。例外的に、当該取引について権限を有する職員の場合には、職務に関する規程などで利害関係がある職員は当該取引に関わることができない旨の定めをおくことで足りると考えます。

 

7 おわりに

これまでスポーツ団体においては、当該競技のいわゆる身内だけで運営されることも多く、利益相反という概念に対する意識が希薄であったことは否めない以上、利益相反を管理すべきことには異論はありません。

しかし、実際にGC8に基づき利益相反を管理しようとすると、様々な疑問や問題点が生じ、NFとしても困っているのが現状であると思います。

今後、GC8も改定されるものと思われますが、3回にわたって利益相反について検討し、その上で、解釈上問題になりそうな点について私見を述べさせていただきました。

 

【参考】

・「スポーツ団体の利益相反について①

・「スポーツ団体の利益相反について②

 

 

 

スポーツ団体の利益相反について②

1 はじめに

前回は、「スポーツ団体の利益相反について①」と題し、利益相反・利益相反取引の定義、一般法人法の定めについて検討しました。今回は、これらに続いて、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「公益認定法」)の定めについて検討を加えます。

 

2 公益認定法による定め

一般法人が公益認定されれば、公益社団法人または公益財団法人(以下まとめて「公益法人」)となります。統括団体(JSPO、JOC、JPSA、JSC)や殆どのNFは公益認定を受けて、公益法人となっています。

そして、公益法人に関する法律として、公益認定法があり、同法は利益相反について直接的に定めているわけではありませんが、近い概念である「特別の利益」の供与に関して、以下のように定めています。
なお、下記の定めは、公益認定の際の要件であるだけでなく、反した場合には公益認定の取消原因となります。
また、公益認定法に関して、施行令及び施行規則が定められているため、併せて参照する必要があります。

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公益認定法

第5条 (公益認定の基準)

行政庁は、前条の認定(以下「公益認定」という。)の申請をした一般社団法人又は一般財団法人が次に掲げる基準に適合すると認めるときは、当該法人について公益認定をするものとする。

  <中略>
 その事業を行うに当たり、社員、評議員、理事、監事、使用人その他の政令で定める当該法人の関係者*に対し特別の利益を与えないものであること。

 その事業を行うに当たり、株式会社その他の営利事業を営む者又は特定の個人若しくは団体の利益を図る活動を行うものとして政令で定める者**に対し、寄附その他の特別の利益を与える行為を行わないものであること。ただし、公益法人に対し、当該公益法人が行う公益目的事業のために寄附その他の特別の利益を与える行為を行う場合は、この限りでない。

    <以下略>

【註*】

上記3号の「政令で定める法人の関係者」については以下のとおり(公益認定法施行令第1条各号)。

 当該法人の理事、監事又は使用人

 当該法人が一般社団法人である場合にあっては、その社員又は基金の拠出者

 当該法人が一般財団法人である場合にあっては、その設立者又は評議員

 前3号に掲げる者の配偶者又は三親等内の親族

 前各号に掲げる者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

⑥ 前2号に掲げる者のほか、第1号から第3号までに掲げる者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持する者

 第2号又は第3号に掲げる者が法人である場合にあっては、その法人が事業活動を支配する法人又はその法人の事業活動を支配する者として内閣府令****で定めるもの

【註**】

上記4号の「特定の個人又は団体の利益を図る活動を行う者」については以下のとおり(公益認定法施行令第2条各号)。

① 株式会社その他の営利事業を営む者に対して寄附その他の特別の利益を与える活動(公益法人に対して当該公益法人が行う公益目的事業のために寄附その他の特別の利益を与えるものを除く。)を行う個人又は団体

② 社員その他の構成員又は会員若しくはこれに類するものとして内閣府令で定める者(以下この号において「社員等」という。)の相互の支援、交流、連絡その他の社員等に共通する利益を図る活動を行うことを主たる目的とする団体

【註***】

公益認定法第29条第2項で、「行政庁は、公益法人が次のいずれかに該当するときは、その公益認定を取り消すことができる。」とし、同項第1号で「第5条各号に掲げる基準のいずれかに適合しなくなったとき」として、上記「特別の利益」に関する定めは公益認定の取消原因となっている。

【註****】

「事業活動を支配する法人として内閣府令で定めるもの」(公益認定法施行令第1条第7号)とは、当該法人が他の法人の財務及び営業又は事業の方針の決定を支配している場合における当該他の法人(以下「子法人」という。)とされ(同法施行規則第1条第1項)、「法人の事業活動を支配する者として内閣府令で定めるもの」(同法施行令第1条第7号)とは、一の者が当該法人の財務及び営業又は事業の方針の決定を支配している場合における当該一の者とされる(同法施行規則第1条第2項)。

同法施行規則第1条第1項及び第2項の「財務及び営業又は事業の方針の決定を支配している場合」とは、次に掲げる場合をいう(同条第3項)。

 一の者又はその一若しくは二以上の子法人が社員総会その他の団体の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関における議決権の過半数を有する場合

 第1項に規定する当該他の法人又は前項に規定する当該法人が一般財団法人である場合にあっては、評議員の総数に対する次に掲げる者の数の割合が百分の五十を超える場合

 一の法人又はその一若しくは二以上の子法人の役員(理事、監事、取締役、会計参与、監査役、執行役その他これらに準ずる者をいう。)又は評議員

 一の法人又はその一若しくは二以上の子法人の使用人

 当該評議員に就任した日前五年以内にイ又はロに掲げる者であった者

 一の者又はその一若しくは二以上の子法人によって選任された者

 当該評議員に就任した日前5年以内に一の者又はその一若しくは二以上の子法人によって当該法人の評議員に選任されたことがある者

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(1) 特別の利益供与の禁止の趣旨

特別の利益供与が禁止される趣旨は、公益法人の財産は公益目的事業に使用されるべきものであり、営利事業や特定の者のために使用されることは適当ではなく、特別の利益の供与を禁ずることで公益法人に対する信頼を確保することにあります。したがって、利益相反の規制とは似た概念であるとはいえ趣旨が若干異なるともいえます。

(2) 留意すべき3つの点

公益認定法の特別の利益供与の禁止に関して留意すべき点は3点あります。すなわち、禁止される「特別の利益」の供与の対象となる者の範囲は極めて広い点、「特別の利益」の解釈が曖昧である点、及び特別利益の供与は「禁止」であり一般法人法の利益相反取引のように承認される余地がない点です。

(a) 禁止される利益供与の対象

禁止される利益供与の対象は、「政令で定める当該法人の関係者」であり、公益認定法施行令によれば、①理事、②監事、③使用人、④社員(社団法人)、⑤基金の拠出者(社団法人)、⑥設立者(財団法人)、⑦評議員(財団法人)のほか、①~⑦の配偶者又は三親等内の親族、若しくは①~⑦の婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者、①~⑦から受ける金銭その他の財産によって生計を維持する者、③~⑥が法人である場合その法人が事業活動を支配する法人又はその法人の事業活動を支配する者として内閣府令(上記 註****参照)で定めるものとなり、極めて広範囲にわたります。

(b) 「特別の利益」の定義

内閣内閣府公益認定等委員会が作成した「公益認定等に関する運用について」において、「『特別の利益』とは、利益を与える個人又は団体の選定や利益の規模が、事業の内容や実施方法等具体的事情に即し、社会通念に照らして合理性を欠く不相当な利益の供与その他の優遇」としており、基準としてはかなり曖昧なものになっています。
具体的に、どのような利益供与が「特別の利益」に該当するのか、明らかではありませんが、他の法人に助成金や補助金を出すことについて、それをもって直ちに「特別の利益」に該当するものではなく、不相当な利益供与に当たるもののみ問題となるとされています(「公益法人制度等に関するよくある質問 問Ⅳ-1-①」)。

(c) 特別の利益供与は禁止

「特別の利益」の供与はあくまで禁止であり、一般法人法における利益相反取引のように承認機関が認めれば供与が可能になるというようなことはありません。この点は重要な相違だといえます。

 

3 おわりに

公益認定法を読み解くには、施行令や施行規則を参照しなければならず、なかなか煩雑であるといえます。また、これまで検討してきたように、公益法人法の特別の利益供与の禁止は、その趣旨からも一般法人法の利益相反取引の制限とは異なるところもあります。次回(最終回)では、これらの定めとGCとがどのように関わるのか検討したいと思います。

 

 

スポーツ団体の利益相反について①

1 はじめに

2019年に、スポーツにおける中央競技団体(NF)に向けてガバナンスコード(GC)がスポーツ庁により策定され、その中で原則8として以下のように定められています。

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原則8 利益相反を適切に管理すべきである。

(1) 役職員、選手、指導者等の関連当事者とNFとの間に生じ得る利益相反を適切に管理すること

(2) 利益相反ポリシーを作成すること

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そして、GCが作成を求める「利益相反の管理」がいかなる内容であるべきなのか、NF等のスポーツ団体が苦慮していると聞くことも少なからずあります。また、法人化したスポーツ団体において、利益相反等に関わる法令について、意外に知られていないと感じることも多々あります。

そこで、今回は、スポーツ団体の利益相反について考えたいと思います。先ずは、利益相反や利益相反取引の定義について述べた後、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」)や公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「公益認定法」)を整理した上で、GCについて検討したいと思います。

 

2 利益相反・利益相反取引

⑴ 利益相反・利益相反取引とは 

「利益相反」とは、一方の利益になると同時に他方の損失になるというような、相互の利益が衝突・相反(あいはん)する状態をいいます。

「利益相反取引」とは、「取引」が営利(経済的利益)のためになす経済行為という意味であるため、相互の利益が衝突・相反する経済行為ということになります。

したがって、「利益相反」に該当する「行為」は、「利益相反取引」を包括する広い概念といえます。

 

 研究機関における利益相反

大学などの研究機関において、「取引」とはいえない研究・教育について、「利益相反」という言葉が使われることがあります。

その場合の「利益相反」とは、企業等から研究費等の経済的利益を受けて研究をする場合に、そのような利益と大学や研究者として公に資する研究をしなければならないという責任とが衝突・相反することをいうようです。

 

 スポーツ団体における利益相反

スポーツ団体においては、当然ながら「取引」に関して利益相反が生じることもありますが、経済的行為でない業務等においても、利益が相反する状態があり得ます。

たとえば、スポーツ団体の重要な業務のひとつである代表選手選考をする場合に、選考する側(理事会や強化委員会など)に選考の対象となる選手自身やその親族がいれば、選考の公正性や中立性が損なわれますが、このことを利益相反と呼ぶことがあります。すなわち、選考する側の責任と選考される側の利益が衝突・相反するということになります。

なお、GC原則8において、「利益相反」という言葉と「利益相反取引」という言葉が明確な区別がなく使われているようにも思われ、これが混乱を招く原因のひとつとなっていると考えられます。

 

3 一般法人法による定め

スポーツ団体が法人化する場合には、一般社団法人や一般財団法人(以下まとめて「一般法人」)になることが多いと思われますが、利益相反に関し、一般法人法が下記のように定めています。

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第84条(競業及び利益相反取引の制限)

1 理事は、次に掲げる場合は、社員総会*において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

① 理事が自己又は第三者のために一般社団法人の事業の部類に属する取引をしようとするとき。

② 理事が自己又は第三者のために一般社団法人と取引をしようとするとき。

③ 一般社団法人が理事の債務を保証することその他理事以外の者との間において一般社団法人と当該理事との利益が相反する取引をするとき。

 

第111条(役員等の一般社団法人に対する損害賠償責任)

1 理事、監事又は会計監査人は、その任務を怠ったときは、一般社団法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

2 理事が第84条第1項の規定に違反して同項第1号の取引をしたときは、当該取引によって理事又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。

3 第84条第1項第2号又は第3号の取引によって一般社団法人に損害が生じたときは、次に掲げる理事は、その任務を怠ったものと推定する

① 第84条第1項の理事

② 一般社団法人が当該取引をすることを決定した理事

③ 当該取引に関する理事会の承認の決議に賛成した理事

 

*なお、競業及び利益相反取引に関する承認機関について、理事会設置一般社団法人の場合及び一般財団法人の場合には理事会の承認となる(第92条、第197条)

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⑴ 利益相反取引の制限の趣旨及び内容

利益相反取引が制限される(84条1項2号3号)の趣旨は、理事が自ら当事者として(=自己のため)又は他人の代理人・代表者として(=第三者のため)法人と取引をする場合(直接取引、同項2号)、あるいは法人が理事の債務を保証する場合のように理事以外の者との間において法人と当該理事との利益が相反する取引をする場合(間接取引、同項3号)においては、当該理事が自己又は第三者の利益を図り、法人の利益を害する(経済的損失を生じる)おそれがあるため、これを防ぐことにあります。

当該取締役は、重要な事実を開示しなければならず(同項柱書)、これらの事実を基に様々な観点から総合勘案されて、理事会ないし社員総会により当該取引が承認されれば、当該取引をしてよいことになります。

ただし、結果的に一般法人に損失が生じた場合には、当該理事、当該取引を決定した理事、当該取引の承認に賛成した理事は、任務懈怠が推定され(111条3項)、もって損害賠償責任が生じる可能性があります(同条1項)。すなわち、承認を経たか否かにかかわらず、損失が生じた場合には、当該利益相反取引に関与した理事に賠償責任を負わせることで法人の損失の回復を図る手段があるということになります。

なお、競業取引(84条1項1号)についても、法人の利益を害するおそれがあることは、利益相反取引と変わりがないため、同様の制限を受けています。

 

⑵ 制限の対象は「理事」が関わる「取引」に限られる

一般法人法84条は、利益相反に関して、「理事」が関わる「取引」という経済行為を制限しています。

したがって、監事、職員及びその他法人の関係者は同条の制限の対象とされていません。その理由として、監事や職員その他法人の関係者は当該取引に関して承認や議決の権限がないことが挙げられます。

また、前述したような、スポーツ団体における代表選手選考に関する利益相反は「取引」には該当しないため、同条の制限の対象外となります。

 

⑶ 利益相反取引の「制限」であって「禁止」ではない

一般法人法84条は、利益相反取引を制限しているに過ぎず、適式な手続を経れば、利益相反取引も許されるのであって、絶対的な禁止ではないことに注意する必要があります。

この点、平たく言えば、利益相反取引のあくまで制限は損得の問題であり、理事会でその損得について判断させ、仮に事後、損失が生じていることが判明すれば、関係した理事に損失を補わせるということになります。

したがって、次回に検討する公益認定法における特別の利益の供与はあくまで禁止であり、この供与が認められることがないことと対照的です。

 

~次回は、公益認定法及びGC原則8について検討します。~

 

フリークライミングにおけるリボルトの法的問題について

1  はじめに

フリークライミングの歴史は登山の歴史よりも相当新しいのですが、それでも約50年が経過しています。そして、フリークライミングのスタイルは様々ありますが、大きく分けて、ロープを使ったクライミングとロープを使わないボルダリングとがあり、ロープを使ったクライミングのルートには、落ちた場合に支点となるボルトが設置されているものが多数を占めるといえます。

ところが、従前に設置されたボルトの老朽化が進んだり、あるいはボルト位置が適切でなく危険性を有するなどの理由で、それらのボルトを打ち替える(リボルト)作業が必要とされる岩場も少なくありません。ボルトは、落下の際の支点になるため、破損等したり、位置が適切でなかったりすると、落下による傷害等を防止できず、最悪の場合は死亡に至るような危険性があるため、そのような危険を有するボルトが存在する岩場では早急にリボルトを行わなければなりません。

このように、リボルトに関して、その必要性は高いにもかかわらず、看過できない法的問題があります。本稿ではこの点について考えてみたいと思います。

 

2 所有権絶対の原則というハードル

⑴ 所有権絶対の原則と岩場利用との関係

リボルトの問題を考える前に、そもそも、岩場に立ち入ったり、岩を登ったり、岩にボルトを打ったりするといった岩場を利用する行為が法に反しないのか、という問題があります。

所有権は、文字どおり、「物」(不動産を含みます)を所有する権利であり、所有者は、所有する「物」を自由に使用、収益、処分でき、仮に所有権を侵害されればこれを排除することができます。このような所有権に関する原則を「所有権絶対の原則」といい、所有者は所有する「物」に関して、いわば絶対的な支配権があるといえます。

そうすると、岩場の所有者は、所有権絶対の原則から、クライマーの岩場への立入りを禁ずることや岩場の利用を認める代わりに利用料をとることもできます。したがって、クライマーは、他者が所有する岩場においては、立ち入ること、岩を登ること、岩にボルトを打つことなど、いずれの行為についても所有者の同意が必要となります。しかしながら、これまでは一部の所有者の同意を得ている岩場を除いて、ほとんどの岩場では黙認によって、クライミングなどの岩場の利用がなされてきたといえます。

 

⑵ 自然公園内での岩場利用

このように岩場を利用するには所有者の承認を得る必要がありますが、国立公園、国定公園及び都道府県立自然公園(以下、まとめて「自然公園」(自然公園法2条1号)。定義については後述)内においては、岩場の立入りやクライミングといった利用は原則として禁じられていないと考えられます。というのも、自然公園について定めた自然公園法において、利用者の責務が3条1項に定められていることなどから同法も利用が許されることを前提と考えているといえますし、環境省が設置した「自然公園制度の在り方検討会」も自然公園の利用に関わる提言し(2020年5月)、利用が許されることを当然の前提としているからです。

よって、自然公園内の岩場の方が自然公園外の岩場よりも、いわば公のお墨付きで利用が許されているともいえ、この反射的効果として、所有権が制限され、所有権者の裁量で立入りを拒絶することは難しいと考えられます。

今回は、自然公園に指定されていない地域の岩場と比べて、利用のハードルが低いといえる自然公園内の岩場のリボルトの問題に焦点を当てたいと思います。

 

3 「工作物」というハードル

上述したように、リボルトとは、ボルトの老朽化等を理由として、ボルトを打ち替えることですが、このボルトやリボルトが自然公園法にどのように関わってくるのか考えます。

⑴ 国立公園及び国定公園における特別地域、海域公園地区、普通地域とは

自然公園法によれば、自然公園には、国立公園、国定公園、都道府県立自然公園があります。そして、国立公園と国定公園は、特別地域、海域公園地区と普通地域に区別されます。

「特別地域」とは、国立公園においては環境大臣、国定公園においては都道府県知事が、当該公園の風致を維持するために公園計画に基づいて指定した地域(20条1項)、「海域公園地区」とは、国立公園においては環境大臣、国定公園においては都道府県知事が、当該公園の海域の景観を維持するために公園計画に基づいてその海域内に指定した地区(22条1項)、「普通地域」とは、特別地域及び海域公園地区以外の区域(33条1項)をいいます。

現状において、海域公園地区にはクライミングのための岩場は極めて少ないので、国立公園と国定公園における特別地域と普通地域について考えます。

 

⑵ 工作物に関する規制

特別地域内において「工作物を新築し、改築し、又は増築する」場合には、国立公園にあっては環境大臣、国定公園にあっては都道府県知事の許可を受けなければならないとされ(20条3項1号、特別保護地区については21条3項1号)、普通地域では、「その規模が環境省令で定める基準を超える工作物を新築し、改築し、又は増築する」場合には、国立公園にあっては環境大臣、国定公園にあっては都道府県知事に届け出なければならない(33条1項1号)とされています。

すなわち、ボルトが「工作物」に該当するのか、リボルトが「工作物を新築し、改築し、又は増築すること」に該当するのかによって規制のあり方が異なることになります。なお、ボルトが「工作物」に該当すれば、リボルトは「工作物を新築し、改築し、又は増築する」に該当する可能性が高いため、以下ではボルトが「工作物」に該当するか否かによって場合を分けて考えます。

 

⑶ 普通地域でのリボルト

普通地域において、ボルトが、「工作物」に該当しなければリボルトについて届出は不要となり、「工作物」に該当するとしても「その規模が環境省令で定める基準を超え」(33条1項1号)なければ届出は不要といえます。

仮に、ボルトが「その規模が環境省令で定める基準を超える工作物」に該当しても、届出をすればリボルトは認められるということになるでしょう。なお、「許可」は禁止されている行為を解除することで審査にパスする必要がありますが、「届出」はその要件に従い届出をすれば足り審査はされません。

したがって、普通地域におけるリボルトは下記の特別地域と比べて法的問題が少ないといえます。

 

⑷ 特別地域でのリボルト

特別地域において、ボルトが、「工作物」に該当しなければリボルトについての許可は不要となりますが、「工作物」に該当するのであれば、リボルトについて、国立公園にあっては環境大臣、国定公園にあっては都道府県知事の許可を得なければならないことになります。

そして、許可のための基準については、「環境省令で定める基準」(20条4項)として自然公園法施行規則(昭和32年厚生省令第41号)11条「特別地域、特別保護地区及び海域公園地区内の行為の許可基準」があります。

なお、自然公園法及び同施行規則によれば、特別地域は、特別保護地区(法21条)、第1種特別地域、第2種特別地域、第3種特別地域(規則9条の2)に区分され、その許可基準も異なります。

 

⑸ ボルトが「工作物」に該当しない場合

上述のように、ボルトが、「工作物」に該当しない場合は、リボルトを行う地域が特別地域でも普通地域でも、自然公園法が求める許可や届出は不要になると考えられます。

とはいえ、クライマーが岩場に立ち入ること、クライミングをすること、リボルトをすることが、明文の法令により認められているわけではないため、大手を振ってリボルトができるわけではないことに留意する必要があります。

 

⑹ 都道府県立自然公園でのリボルト

都道府県立自然公園については、条例により指定された特別地域(特別地域内に利用調整地区あり)とそれ以外の地域があり、自然公園法の規制(第2章第4節)の範囲において、条例で必要な規制をすることができます(73条1項)。

したがって、都道府県立自然公園に関しては条例を確認する必要がありますが、国立公園・国定公園と同様の規制がある可能性が高いといえるでしょう。

 

4 おわりに

スポーツクライミングが東京2020五輪から追加競技として採用され、多くの方がスポーツクライミングの選手の活躍をご覧になったものと思います。また、2028年のロサンゼルス五輪からは正式競技として採用が決まっております。

このようなクライミングに対する認知度・関心度の高まりを契機に、これまで岩場の地権者(所有者のみならず管理者をも含めた土地に関わる権利や権限を有する者)の黙認のもと行われてきたクライミングやクライミングに関わる行為(新らたにボルトを打つ行為、リボルト等)が法的に承認されるような土壌を整え、上述したようなハードルを正面から越えていく必要があるのではないでしょうか。

先ずは、その岩場が自然公園内にあるのか、自然公園内にあるとしてどの地域や区分にあるのかを確認しなければなりません。そして、岩場に関し、自然公園の内外を問わず、行政(国や地方公共団体)、地権者及びその関係者と対話することから始める必要があるでしょう。

 

 

コロナ禍とスポーツの価値

1 はじめに

世界的なコロナ禍により、2020年に予定されていた東京五輪が延期となり、その後の緊急事態宣言の発出期間中は、予定されていた殆ど全てのスポーツイベントが中止・延期となり、学校での部活動やクラブチームでのスポーツも休止となりました。

この様な中で、「スポーツがなくても、生活に殆ど影響がない」とか、「スポーツこそが不要不急だ」という方もいれば、「あるスポーツに打ち込んでいたけど、そのスポーツができなくて心身共に不調になった」とか、「プロ野球もJリーグも中止となり、生き甲斐がなくなった」という方もおられることと思います。このように、ステイホーム期間中に、スポーツについて考えたり感じたりしたことは人それぞれでしょう。

そこで本稿では、コロナ禍を契機としてスポーツの価値に変化があるのかないのか、あるとしてどのような変化なのかを考えてみたいと思います。

 

2 そもそもスポーツとは?(スポーツの定義)

コロナ禍とスポーツの価値との関わりを考える前に、そもそも「スポーツ」とは、どのような活動を指すのか考えてみたいと思います。

古くは、スポーツは、本質的な3要素として「プレイ(遊戯)」「闘争」「激しい肉体的活動」を挙げ(ベルナール・ジレ)、その3要素が複合したものとされるなど、スポーツの定義は比較的狭く解されていました。このような3要素を併せ持つスポーツとして、プロスポーツや五輪や世界選手権等でのトップアスリートのパフォーマンスが想起されます。

 

3 スポーツの現代的定義 

スポーツが一部のトップアスリートだけのものではなく、一般市民にとってのものとなるにつれ、一般市民にスポーツ権が認められるようになり、スポーツの定義も広く解されるようになりました。

たとえば、スポーツ基本法前文においては、「スポーツは、心身の健全な発達、健康及び体力の保持増進、精神的な充足感の獲得、自律心その他の精神の涵養(かんよう)等のために個人又は集団で行われる運動競技その他の身体活動」とされています。

スポーツ基本法は法律であるため、少し分かりにくい表現となっていますが、スポーツ庁のウェブサイトでは、このことを噛み砕いて、次のように説明されています。

スポーツは、「身体を動かすという人間の本源的な欲求に応え、精神的充足をもたらすもの」(「第二期スポーツ基本計画」)として、「たとえば、朝の体操から何気ない散歩やランニング、気分転換のサイクリングから、家族や気の合う仲間と行くハイキングに海水浴など、その範疇はさまざま。つまり、スポーツとは一部の競技選手や運動に自信がある人だけのものではなく、それぞれの適性や志向に応じて、自由に楽しむことができる『みんなのもの』なのです」とあります。

 

4 現代的定義におけるスポーツの特徴

ここで注目すべきは、「スポーツとは一部の競技選手や運動に自信がある人だけのものではなく、それぞれの適性や志向に応じて、自由に楽しむことができる『みんなのもの』」だとして、朝の体操から何気ない散歩やランニング、気分転換のサイクリングから、家族や気の合う仲間と行くハイキングに海水浴もスポーツだとされている点です。

以上からすると、スポーツの現代的定義は、プロを含めたトップアスリートが世界一を競うものから、子どもや高齢者の散歩やジョギングまでの活動を大きく包括した概念だといえます。

 

5 コロナ禍とスポーツ

コロナ禍の前には、スポーツとしてスポットライトが当たっていたのは、子どもや高齢者の軽い運動というよりは、トップアスリートのパフォーマンスのような狭い解釈におけるスポーツだったように思われます。

その後、コロナ禍が拡大し、緊急事態宣言が発出され、国民の様々な行動の自粛が要請され、トップアスリートにとってのスポーツは自粛を余儀なくされました。

ところが、緊急事態宣言による自粛の対象から、屋外での軽いジョギングや散歩は外され、認められていました。これは、軽いジョギングや散歩といった運動が老若男女を問わず、身体や精神の健康維持・増進のために、人々の生活の中で必要不可欠な行動であると認められた証といえるでしょう。

そして、スポーツの現代的定義によれば、軽いジョギングや散歩もスポーツなのですから、様々な行動の自粛が求められる中で、食べたり、寝たりすることと同様に、人間が生きていく上で不可欠なものとして、スポーツが認められたということになると考えられます。すなわち、コロナ禍によって、スポーツの重要性に焦点が当たったともいえるでしょう。

 

6 おわりに(コロナ禍とスポーツの価値)

スポーツ基本法に規定されたスポーツ権には、スポーツを「する」権利、「みる」権利、「支える」権利が包含されています。

これまで述べてきたように、今回のコロナ禍で、身体や精神の健康維持・増進のために、全国民の「する」スポーツに焦点が当たりました。

そして、歴史上の多くの感染症が収束したように、ある程度の時間を経て、コロナ禍も収束するでしょう。そのときには、トップアスリートのパフォーマンスを満喫することができるようになるはずです。それは、トップアスリートにとっての「する」スポーツ、その他の人々にとっての「みる」「支える」スポーツの復活ともいえます。

そうだとすれば、コロナ禍が収束したときには、一般的な国民にとっての「する」スポーツに、トップアスリートにとっての「する」スポーツやその他の人々にとっての「みる」「支える」スポーツが加わり、このことでスポーツの価値を人々が再認識し、全体としてスポーツの価値は高まっていくと考えられるのではないでしょうか。

 

 

 

証拠集めのススメ ~暴言・パワハラ事案において~

1  はじめに

不幸にも、スポーツの指導者の暴言やパワハラによって、精神的苦痛を被り、病院に通わざるをえなかったり、そのスポーツをやめざるを得なかったりすることがあります。

被害に遭われた方には、先ずは心身の回復を目指していただきたいと思います。そして、被害に遭われた方の多くは、指導者に対し然るべき処分をして欲しいと考えることと思われます。

本稿では、適正な処分を実現するために注意すべきことについて、証拠を中心に述べていきたいと思います。

 

2  事実認定と証拠

ある人を処分する場合に、処分の対象となる事実の認定は、原則として証拠に基づかなければなりません。というのも、その人に不利益な処分を科すためには、間違いがあってはならず、そのため確たる証拠に基づかなければならないからです。

ただし、処分の対象となる行為者が自由な意思に基づいて事実を認めている場合は、そのような間違いが生じないことから、例外的に証拠に基づくことなく、事実を認定することができます。

したがって、どのような事案でも、行為者が事実を認めない限りは、証拠が必要となります。

 

3 証拠の多寡

事案によって、証拠が豊富にあったり、反対に証拠が少なかったりすることがあります。

たとえば指導者の暴力により怪我を負ったという事案では、暴力を振るった上に怪我までさせているため、事実の痕跡である証拠が比較的残り易いといえます。

ところが、暴言やパワーハラスメント(パワハラ)がなされた場合では、事実の痕跡が残りにくく、実際に目ぼしい証拠がないことが多いといえます。

このように事案の性質によって証拠の多寡の傾向はありますが、結局は事案ごとに証拠の多寡は異なることになります。

そして、証拠は多いに越したことはありませんが、より重要なのは個々の証拠の価値です。証拠の価値は、一般的にその証拠がどの程度信用できるか(信用性)やその証拠と立証すべき事実とどの程度関連するか(関連性)等によって決まるとされています。以下では、証拠の信用性を中心に具体的に検討します。

 

4 目撃証言

たとえば、ある人が、当該行為をたまたま目撃していたとします。

被害者としては、目撃者がいるなら、事実はその人が明らかにしてくれると考えるのが通常と思われます。このように目撃者が当該行為について証言してくれれば、これが証拠となります(目撃証言)。

しかし、実際には、目撃者が行為者の行為について進んで証言をしてくれることは多いとはいえず、目撃者の協力を得るのは簡単ではありません。トラブルに巻き込まれたくない、行為者の逆恨みが心配される、目撃はしたものの証言できるほど明確に記憶していない等の事情があり得るからです。

 

5 目撃証言の信用性

仮に目撃証言が得られたとしても、残念ながら目撃証言は信用性が高いとはいえず、証拠として万全とはいえません。

その理由は、①人の証言には誤りが入り易いこと、②目撃者と行為者又は被害者との人的関係によって証言の内容が変わり得ることにあります。

①については、目撃証言は知覚、記憶、叙述という過程をたどりますが、事実を知覚・認識する際に誤りが入る可能性があり(見間違い、聞き間違い)、その認識を記憶する際に誤りが入る可能性があり(覚え間違い)、その記憶を叙述・表現する際に誤りが入る可能性がある(言い間違い、書き間違い)からだとされています。

②については、目撃者が、行為者あるいは被害者に人的関係が近い場合には、目撃証言がその者に有利な証言内容となり易く、反対に行為者や被害者と敵対関係にある場合には、目撃証言がその者に不利な証言内容となり易いためです。

 

6  録音・録画記録

処分の対象となる事実に関する証拠として目撃証言しかなく、なおかつ行為者が否認しているような場合には、目撃証言の信用性を中心とした証拠価値を精査しなければなりませんが、事実の認定は難航せざるを得ません。

それでは、どのような証拠があればより事実の認定に役立つのでしょうか。

これは皆さん方も納得いただけるところかと思いますが、処分の対象となる行為者の言動を録音又は録画した記録(録音・録画記録)があればよいといえます。録音・録画記録は、目撃証言のように誤りが入る可能性が類型的に少ないといえますし、人的関係に原則として左右されないといえるからです。もちろん、録音・録画記録も改ざんしようと思えばできますが、信用性という点では目撃証言よりも格段に高いといえます。

 

7  秘密録音・録画の適法性

当該行為を録音したり、録画したりしたものの、行為者に知らせずに録音や録画したため、その違法性について心配される方も多いと思います。いわゆる秘密録音・録画といわれるもので、たとえば、行為者の承諾なしに、ポケットの中のスマホで録音するとか、友人に頼んで撮影してもらうなどのケースがあります。

秘密録音・録画は、原則として違法性があるとはされておりませんので、秘密録音・録画のデータを証拠とすることに問題はありません。

したがって、当該行為の録音・録画データがあるのであれば、迷わず提出して、事実認定に役立ててもらえばよいと思います。

 

8 証拠に乏しいとき

そうは言っても、録音・録画データなどの決め手となる証拠がないということも多いと思います。

パワハラや暴言に苦しんでおられる方には言いづらいのですが、そのようなときの対処法として、もう少し我慢をしていただいて、行為を録音や録画していただきたいのです。その場合、上に述べたように、行為者の承諾を得る必要はありません。

重要なのは、その行為自体を録音・録画することです。なぜなら、行為自体ではなく、その前後の行為が録音・録画されていたとしても、その証拠の価値はかなり下がってしまうからです(関連性の問題)。

 

9 おわりに

私は、スポーツ団体において、指導者等の処分をする委員会の委員を務めておりますが、被害者が勇気を出して暴言やパワハラの告発をしたとしても、証拠の乏しさゆえに事実認定が困難であることも多々あります。

このようなことを避けるためにも、もし本稿を読まれた方が、指導者の言動に関して、「これってもしかしてパワハラ?」「今の発言は暴言?」と感じられ、少しでもその指導者への信頼が揺らぎ始めたら、その行為を録音・録画することをお勧めします。指導者との信頼関係があるので、なかなか秘密録音・録画に踏み切れないかも知れませんが、取り返しのつかない事態に陥ることを避けるためにも一考していただけるとよいと思います。

 

 

 

スポーツ団体の決定に対する不服申立について

1 はじめに

よく受ける相談として、「スポーツ団体の決定に不服があるのですが、どのようにすればよいですか」というものがあります。ここでの「決定」には様々なものがあり、たとえば、不利益処分、代表選考基準、同基準に基づく選考結果、役員人事、規則や規程の制定・改定などです。

このような相談をされる方は、スポーツ団体の外部から、その決定に不服があるため、決定を取り消させたり、変更させたりしたいと思っておられる方が殆どでしょう。

したがって今回は、スポーツ団体の決定に対する不服申立の方法と申立によって決定を変えられるかという観点から検討したいと思います。

 

2 スポーツ団体に認められる裁量

不服申立について述べる前に、スポーツ団体の決定とその裁量について説明しておきます。

スポーツ団体は、その団体に関わる事項について、「一定の範囲内での判断や行為の選択ができること」、すなわち「裁量」を有しています。裁量の範囲について、スポーツ団体によって異なるものの、一般的には、スポーツ団体の自立性や専門性から、ある程度広範に認められています。

このようにスポーツ団体が決定をする際にもある程度広い裁量が認められるため、決定に対し不服を申し立てても、余程の根拠がない限り取り消されたり、変更されたりしないといえます。

 

3 誰でもできる意見を述べる方法

スポーツ団体の決定について外部から意見を述べる方法として、スポーツ団体に対して意見を記した書面を送付したり、SNSやブログ等で自らの意見を発信したりすることが考えられます。これらの方法は原則として誰でもできます。

このような意見の内容が合理的であり、スポーツ団体の納得を得られる限りで、その決定が変更される可能性があります。

もっとも、スポーツ団体には、表明された意見に対し何らかの対応や応答をしなければならないという法的根拠もありません。とはいえ、SNS等で意見を表明し賛同者を多数得られれば、スポーツ団体としても何らかの対応をせざるを得なくなることもあり得ますし、書面をスポーツ団体に送付する場合に、弁護士名義であれば、スポーツ団体が対応や応答をすることが多いといえます。

仮にスポーツ団体が対応を迫られたとしても、前述したように、スポーツ団体はその決定に関し裁量を有していることから、その意見を受けて決定を変更することはごく稀だといえるでしょう。

 

4 スポーツ団体の不服申立制度を利用する方法

スポーツ団体に決定に対する不服申立の制度があれば、そこに申し立てることもできます。

このような制度は大抵その利用者は限定されており、誰でも不服申立ができるわけではないので、スポーツ団体の当該制度の規定等を確認する必要があります。

そして、利用できる立場にあったとしても、その他のスポーツ団体が決めた申立の要件を満たさなければなりませんが、これらがクリアされて有効に申し立てられれば、スポーツ団体は必ず何らかの対応をしなければなりません。

ただし、これまでも述べてきたように、スポーツ団体には裁量が認められますから、必ずしも決定が取り消されたり、変更されたりするわけではないことに注意が必要です。

 

5 スポーツ仲裁を利用する方法

不服申立の手段として、スポーツ団体の外部組織を利用することも考えられます。

利用しやすいのがスポーツ仲裁であり、国内の仲裁機関として(公財)日本スポーツ仲裁機構(JSAA)があります。

ただし、JSAAへの申立ては、誰でも、どのような不服でも、申し立てられるわけではありません。

すなわち「競技者等」が「競技団体」に対し、その「決定」に不服があるときで、「仲裁合意」がある場合に限り、申立ができるのです(スポーツ仲裁規則第2条参照)。

先ず「競技者等」とは、スポーツ競技における選手、 監督、コーチ、チームドクター、トレーナー、その他の競技支援要員及びそれらの者により構成されるチームをいい、競技団体の評議員、理事、職員その他のスポーツ競技の運営に携わる者を除く(同規則第3条第2項)とされています。

また、「競技団体」とは、日本オリンピック委員会(JOC)、 日本スポーツ協会(JSPO)、日本障がい者スポーツ協会、各都道府県体育・スポーツ協会、及びこれらの加盟団体等(同規則第3条第1項)とされています。

加えて、スポーツ仲裁は、あくまで仲裁手続ですから当事者双方の仲裁パネルへの付託に関する合意である「仲裁合意」を要します。なお、競技団体によっては自動応諾条項(競技団体が申立てに応じて自動的に応諾するとの条項)を規定している場合もあるので確認してみて下さい。

少し専門的になりますが、争う対象の「決定」について、スポーツ団体が幾つかの決定をしていた場合に、どの決定を争うのかということも戦略的には重要となります。

実際のJSAAの仲裁判断をみてみると、代表選考を選手が争うケースや不利益処分を受けた選手やコーチ等がその処分を争うケースが多いといえます。もっとも、先に述べたようにスポーツ団体に裁量が認められるため、必ずしも決定が取り消されるわけではないことはこれまでの不服申立の方法と同様です。

 

6 裁判所に訴える方法

裁判所に訴えられないかと考える方も多いと思います。

提訴は、原則として誰でもできますが、コストと時間がかかることと、裁判所に門前払いされる可能性があること、これまで述べた方法と同様にスポーツ団体には裁量があることから、方法として採りづらいといえます。

ここで、門前払いについて説明を加えると、スポーツ団体には一定の自立性が認められ、内部のことは内部で解決することが妥当であると考えられるため、裁判所は決定の内容まで踏み込んで判断せずに門残払いしてしまうことが少なくありません(部分社会の法理、法律上の争訟性の欠如)。

それでも、裁判が有効であるケースもありますので、個別に検討していただければよいでしょう。

 

7 団体内部から変えていく方法

これまでは外部からスポーツ団体の決定を変える方法について検討してきましたが、自ら又は考えを同じくする人をスポーツ団体の役員として送り込み、その意見を反映させ、スポーツ団体の内部から変えていくということもあり得ます。この方法は迂遠なようにみえますが、スポーツ団体のあり方から根本的に変えていくことができます。

しかしながら、役員選考方法について明らかにしていないスポーツ団体が大多数であり、仮に役員選考方法のルールが明らかとなっていたとしても、役員人事についてもスポーツ団体に広範な裁量が認められることからすると、役員を送り込んで内部から変えていくことも決して簡単なことではないといえるでしょう。

 

8 おわりに

繰り返し述べてきたように、スポーツ団体の決定に対して不服申立をしたとしても、スポーツ団体にはその決定をするに際しても裁量が認められるため、決定を取り消したり、変更したりすることは困難であるといわざるを得ません。

とはいえ、下記のような場合には決定を覆すことができる可能性があります(スポーツ仲裁の判断基準)。

①スポーツ団体の決定がその制定した規則に違反している場合

②規則には違反していないがその決定が著しく合理性を欠く場合

③決定に至る手続に瑕疵(「かし」、不備と同義)がある場合

④スポーツ団体の規則自体が法秩序に違反し若しくは著しく合理性を欠く場合

以上のように、スポーツ団体の決定を争うことは簡単なことではありませんが、是非とも諦めずにトライして下さい。

 

 

 

 

 

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