弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

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証拠集めのススメ ~暴言・パワハラ事案において~

1  はじめに

不幸にも、スポーツの指導者の暴言やパワハラによって、精神的苦痛を被り、病院に通わざるをえなかったり、そのスポーツをやめざるを得なかったりすることがあります。

被害に遭われた方には、先ずは心身の回復を目指していただきたいと思います。そして、被害に遭われた方の多くは、指導者に対し然るべき処分をして欲しいと考えることと思われます。

本稿では、適正な処分を実現するために注意すべきことについて、証拠を中心に述べていきたいと思います。

 

2  事実認定と証拠

ある人を処分する場合に、処分の対象となる事実の認定は、原則として証拠に基づかなければなりません。というのも、その人に不利益な処分を科すためには、間違いがあってはならず、そのため確たる証拠に基づかなければならないからです。

ただし、処分の対象となる行為者が自由な意思に基づいて事実を認めている場合は、そのような間違いが生じないことから、例外的に証拠に基づくことなく、事実を認定することができます。

したがって、どのような事案でも、行為者が事実を認めない限りは、証拠が必要となります。

 

3 証拠の多寡

事案によって、証拠が豊富にあったり、反対に証拠が少なかったりすることがあります。

たとえば指導者の暴力により怪我を負ったという事案では、暴力を振るった上に怪我までさせているため、事実の痕跡である証拠が比較的残り易いといえます。

ところが、暴言やパワーハラスメント(パワハラ)がなされた場合では、事実の痕跡が残りにくく、実際に目ぼしい証拠がないことが多いといえます。

このように事案の性質によって証拠の多寡の傾向はありますが、結局は事案ごとに証拠の多寡は異なることになります。

そして、証拠は多いに越したことはありませんが、より重要なのは個々の証拠の価値です。証拠の価値は、一般的にその証拠がどの程度信用できるか(信用性)やその証拠と立証すべき事実とどの程度関連するか(関連性)等によって決まるとされています。以下では、証拠の信用性を中心に具体的に検討します。

 

4 目撃証言

たとえば、ある人が、当該行為をたまたま目撃していたとします。

被害者としては、目撃者がいるなら、事実はその人が明らかにしてくれると考えるのが通常と思われます。このように目撃者が当該行為について証言してくれれば、これが証拠となります(目撃証言)。

しかし、実際には、目撃者が行為者の行為について進んで証言をしてくれることは多いとはいえず、目撃者の協力を得るのは簡単ではありません。トラブルに巻き込まれたくない、行為者の逆恨みが心配される、目撃はしたものの証言できるほど明確に記憶していない等の事情があり得るからです。

 

5 目撃証言の信用性

仮に目撃証言が得られたとしても、残念ながら目撃証言は信用性が高いとはいえず、証拠として万全とはいえません。

その理由は、①人の証言には誤りが入り易いこと、②目撃者と行為者又は被害者との人的関係によって証言の内容が変わり得ることにあります。

①については、目撃証言は知覚、記憶、叙述という過程をたどりますが、事実を知覚・認識する際に誤りが入る可能性があり(見間違い、聞き間違い)、その認識を記憶する際に誤りが入る可能性があり(覚え間違い)、その記憶を叙述・表現する際に誤りが入る可能性がある(言い間違い、書き間違い)からだとされています。

②については、目撃者が、行為者あるいは被害者に人的関係が近い場合には、目撃証言がその者に有利な証言内容となり易く、反対に行為者や被害者と敵対関係にある場合には、目撃証言がその者に不利な証言内容となり易いためです。

 

6  録音・録画記録

処分の対象となる事実に関する証拠として目撃証言しかなく、なおかつ行為者が否認しているような場合には、目撃証言の信用性を中心とした証拠価値を精査しなければなりませんが、事実の認定は難航せざるを得ません。

それでは、どのような証拠があればより事実の認定に役立つのでしょうか。

これは皆さん方も納得いただけるところかと思いますが、処分の対象となる行為者の言動を録音又は録画した記録(録音・録画記録)があればよいといえます。録音・録画記録は、目撃証言のように誤りが入る可能性が類型的に少ないといえますし、人的関係に原則として左右されないといえるからです。もちろん、録音・録画記録も改ざんしようと思えばできますが、信用性という点では目撃証言よりも格段に高いといえます。

 

7  秘密録音・録画の適法性

当該行為を録音したり、録画したりしたものの、行為者に知らせずに録音や録画したため、その違法性について心配される方も多いと思います。いわゆる秘密録音・録画といわれるもので、たとえば、行為者の承諾なしに、ポケットの中のスマホで録音するとか、友人に頼んで撮影してもらうなどのケースがあります。

秘密録音・録画は、原則として違法性があるとはされておりませんので、秘密録音・録画のデータを証拠とすることに問題はありません。

したがって、当該行為の録音・録画データがあるのであれば、迷わず提出して、事実認定に役立ててもらえばよいと思います。

 

8 証拠に乏しいとき

そうは言っても、録音・録画データなどの決め手となる証拠がないということも多いと思います。

パワハラや暴言に苦しんでおられる方には言いづらいのですが、そのようなときの対処法として、もう少し我慢をしていただいて、行為を録音や録画していただきたいのです。その場合、上に述べたように、行為者の承諾を得る必要はありません。

重要なのは、その行為自体を録音・録画することです。なぜなら、行為自体ではなく、その前後の行為が録音・録画されていたとしても、その証拠の価値はかなり下がってしまうからです(関連性の問題)。

 

9 おわりに

私は、スポーツ団体において、指導者等の処分をする委員会の委員を務めておりますが、被害者が勇気を出して暴言やパワハラの告発をしたとしても、証拠の乏しさゆえに事実認定の困難であることも多々あります。

このようなことを避けるためにも、もし本稿を読まれた方が、指導者の言動に関して、「これってもしかしてパワハラ?」「今の発言は暴言?」と感じられ、少しでもその指導者への信頼が揺らぎ始めたら、その行為を録音・録画することをお勧めします。指導者との信頼関係があるので、なかなか秘密録音・録画に踏み切れないかも知れませんが、取り返しのつかない事態に陥ることを避けるためにも一考していただけるとよいと思います。

 

 

 

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