弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

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フリークライミングにおけるリボルトの法的問題について

1  はじめに

フリークライミングの歴史は登山の歴史よりも相当新しいのですが、それでも約50年が経過しています。そして、フリークライミングのスタイルは様々ありますが、大きく分けて、ロープを使ったクライミングとロープを使わないボルダリングとがあり、ロープを使ったクライミングのルートには、落ちた場合に支点となるボルトが設置されているものが多数を占めるといえます。

ところが、従前に設置されたボルトの老朽化が進んだり、あるいはボルト位置が適切でなく危険性を有するなどの理由で、それらのボルトを打ち替える(リボルト)作業が必要とされる岩場も少なくありません。ボルトは、落下の際の支点になるため、破損等したり、位置が適切でなかったりすると、落下による傷害等を防止できず、最悪の場合は死亡に至るような危険性があるため、そのような危険を有するボルトが存在する岩場では早急にリボルトを行わなければなりません。

このように、リボルトに関して、その必要性は高いにもかかわらず、看過できない法的問題があります。本稿ではこの点について考えてみたいと思います。

 

2 所有権絶対の原則というハードル

⑴ 所有権絶対の原則と岩場利用との関係

リボルトの問題を考える前に、そもそも、岩場に立ち入ったり、岩を登ったり、岩にボルトを打ったりするといった岩場を利用する行為が法に反しないのか、という問題があります。

所有権は、文字どおり、「物」(不動産を含みます)を所有する権利であり、所有者は、所有する「物」を自由に使用、収益、処分でき、仮に所有権を侵害されればこれを排除することができます。このような所有権に関する原則を「所有権絶対の原則」といい、所有者は所有する「物」に関して、いわば絶対的な支配権があるといえます。

そうすると、岩場の所有者は、所有権絶対の原則から、クライマーの岩場への立入りを禁ずることや岩場の利用を認める代わりに利用料をとることもできます。したがって、クライマーは、他者が所有する岩場においては、立ち入ること、岩を登ること、岩にボルトを打つことなど、いずれの行為についても所有者の同意が必要となります。しかしながら、これまでは一部の所有者の同意を得ている岩場を除いて、ほとんどの岩場では黙認によって、クライミングなどの岩場の利用がなされてきたといえます。

 

⑵ 自然公園内での岩場利用

このように岩場を利用するには所有者の承認を得る必要がありますが、国立公園、国定公園及び都道府県立自然公園(以下、まとめて「自然公園」(自然公園法2条1号)。定義については後述)内においては、岩場の立入りやクライミングといった利用は原則として禁じられていないと考えられます。というのも、自然公園について定めた自然公園法において、利用者の責務が3条1項に定められていることなどから同法も利用が許されることを前提と考えているといえますし、環境省が設置した「自然公園制度の在り方検討会」も自然公園の利用に関わる提言し(2020年5月)、利用が許されることを当然の前提としているからです。

よって、自然公園内の岩場の方が自然公園外の岩場よりも、いわば公のお墨付きで利用が許されているともいえ、この反射的効果として、所有権が制限され、所有権者の裁量で立入りを拒絶することは難しいと考えられます。

今回は、自然公園に指定されていない地域の岩場と比べて、利用のハードルが低いといえる自然公園内の岩場のリボルトの問題に焦点を当てたいと思います。

 

3 「工作物」というハードル

上述したように、リボルトとは、ボルトの老朽化等を理由として、ボルトを打ち替えることですが、このボルトやリボルトが自然公園法にどのように関わってくるのか考えます。

⑴ 国立公園及び国定公園における特別地域、海域公園地区、普通地域とは

自然公園法によれば、自然公園には、国立公園、国定公園、都道府県立自然公園があります。そして、国立公園と国定公園は、特別地域、海域公園地区と普通地域に区別されます。

「特別地域」とは、国立公園においては環境大臣、国定公園においては都道府県知事が、当該公園の風致を維持するために公園計画に基づいて指定した地域(20条1項)、「海域公園地区」とは、国立公園においては環境大臣、国定公園においては都道府県知事が、当該公園の海域の景観を維持するために公園計画に基づいてその海域内に指定した地区(22条1項)、「普通地域」とは、特別地域及び海域公園地区以外の区域(33条1項)をいいます。

現状において、海域公園地区にはクライミングのための岩場は極めて少ないので、国立公園と国定公園における特別地域と普通地域について考えます。

 

⑵ 工作物に関する規制

特別地域内において「工作物を新築し、改築し、又は増築する」場合には、国立公園にあっては環境大臣、国定公園にあっては都道府県知事の許可を受けなければならないとされ(20条3項1号、特別保護地区については21条3項1号)、普通地域では、「その規模が環境省令で定める基準を超える工作物を新築し、改築し、又は増築する」場合には、国立公園にあっては環境大臣、国定公園にあっては都道府県知事に届け出なければならない(33条1項1号)とされています。

すなわち、ボルトが「工作物」に該当するのか、リボルトが「工作物を新築し、改築し、又は増築すること」に該当するのかによって規制のあり方が異なることになります。なお、ボルトが「工作物」に該当すれば、リボルトは「工作物を新築し、改築し、又は増築する」に該当する可能性が高いため、以下ではボルトが「工作物」に該当するか否かによって場合を分けて考えます。

 

⑶ 普通地域でのリボルト

普通地域において、ボルトが、「工作物」に該当しなければリボルトについて届出は不要となり、「工作物」に該当するとしても「その規模が環境省令で定める基準を超え」(33条1項1号)なければ届出は不要といえます。

仮に、ボルトが「その規模が環境省令で定める基準を超える工作物」に該当しても、届出をすればリボルトは認められるということになるでしょう。なお、「許可」は禁止されている行為を解除することで審査にパスする必要がありますが、「届出」はその要件に従い届出をすれば足り審査はされません。

したがって、普通地域におけるリボルトは下記の特別地域と比べて法的問題が少ないといえます。

 

⑷ 特別地域でのリボルト

特別地域において、ボルトが、「工作物」に該当しなければリボルトについての許可は不要となりますが、「工作物」に該当するのであれば、リボルトについて、国立公園にあっては環境大臣、国定公園にあっては都道府県知事の許可を得なければならないことになります。

そして、許可のための基準については、「環境省令で定める基準」(20条4項)として自然公園法施行規則(昭和32年厚生省令第41号)11条「特別地域、特別保護地区及び海域公園地区内の行為の許可基準」があります。

なお、自然公園法及び同施行規則によれば、特別地域は、特別保護地区(法21条)、第1種特別地域、第2種特別地域、第3種特別地域(規則9条の2)に区分され、その許可基準も異なります。

 

⑸ ボルトが「工作物」に該当しない場合

上述のように、ボルトが、「工作物」に該当しない場合は、リボルトを行う地域が特別地域でも普通地域でも、自然公園法が求める許可や届出は不要になると考えられます。

とはいえ、クライマーが岩場に立ち入ること、クライミングをすること、リボルトをすることが、明文の法令により認められているわけではないため、大手を振ってリボルトができるわけではないことに留意する必要があります。

 

⑹ 都道府県立自然公園でのリボルト

都道府県立自然公園については、条例により指定された特別地域(特別地域内に利用調整地区あり)とそれ以外の地域があり、自然公園法の規制(第2章第4節)の範囲において、条例で必要な規制をすることができます(73条1項)。

したがって、都道府県立自然公園に関しては条例を確認する必要がありますが、国立公園・国定公園と同様の規制がある可能性が高いといえるでしょう。

 

4 おわりに

スポーツクライミングが東京2020五輪から追加競技として採用され、多くの方がスポーツクライミングの選手の活躍をご覧になったものと思います。また、2028年のロサンゼルス五輪からは正式競技として採用が決まっております。

このようなクライミングに対する認知度・関心度の高まりを契機に、これまで岩場の地権者(所有者のみならず管理者をも含めた土地に関わる権利や権限を有する者)の黙認のもと行われてきたクライミングやクライミングに関わる行為(新らたにボルトを打つ行為、リボルト等)が法的に承認されるような土壌を整え、上述したようなハードルを正面から越えていく必要があるのではないでしょうか。

先ずは、その岩場が自然公園内にあるのか、自然公園内にあるとしてどの地域や区分にあるのかを確認しなければなりません。そして、岩場に関し、自然公園の内外を問わず、行政(国や地方公共団体)、地権者及びその関係者と対話することから始める必要があるでしょう。

 

 

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