弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

事務所案内

内観

合田綜合法律事務所
〒104-0028
東京都中央区八重洲2-11-2
城辺橋ビル4階

TEL : 03-3527-9415
FAX : 03-3527-9416

10:30~18:30(月曜~金曜、祝日は除く)

なくならないスポーツにおける暴力②

1 はじめに

 2022年8月に、埼玉県本庄市の私立中学校剣道部の元顧問が生徒に対する暴行容疑により逮捕されたとの報道(事件①)、9月には、長崎県諫早市の市立中学校女子バレー部の顧問が部活動中の複数の生徒に対する体罰により文書訓告を受けた後、再発防止の研修受講中にさらに暴力・暴言を行ったとの報道(事件②)、10月には、兵庫県姫路市の私立女子高校ソフトボール部の顧問が部員に対する暴力により顎が外れる傷害を負わせたとの報道(事件③)、11月には、福岡県福岡市の私立高校剣道部の元顧問の暴力・暴言により女子部員が自殺(2020年)した事件に関し学校と遺族の間で和解が成立したとの報道(事件➃)がありました。

 これらの事件を受けて、前回本欄で「なくならないスポーツの現場における暴力①」と題して、総論と事件①についてコメントしましたので、今回は事件②~④について、コメントしたいと思います。

 

2 事件②について

 報道によれば、中学校女子バレー部の顧問の教諭が2022年3月に部活動中の複数の生徒に対して、ボールを押し当てるなど(行為A)の体罰により文書訓告を受け、その後、顧問を外れ、4月から1年間、再発防止の研修受講中だったが、7月に体育の授業を受けていたバレー部員3名(いずれも3月に体罰を受けた部員)に「バレー部やめろ」などと不適切な発言を行い、うち1人の脇腹を蹴り(行為B)、県教育委員会は停職1カ月の懲戒処分を受けたとのことです。

 私は、行為Bに対して停職1か月の懲戒処分を受けたことはともかく、行為Aに対する懲戒処分が文書訓告にとどまるという点に疑問を感じます。

 前回述べたように、部活動は学校教育の一環であり、部活動中の暴力は、暴行罪の構成要件に該当する違法な行為であるとともに、学校教育法上の体罰に該当する違法な行為でもあります。しかも複数の生徒に体罰を行ったということですから、ひとりに対する単発の暴力とは異なり、その悪質性は増すといえます。行為Aに対する文書訓告という処分は手緩いといえるのではないでしょうか。また、教育現場において体罰に対して意識が低いと言われてもやむを得ないと思います。

 参考までに、(公財)日本スポーツ協会の公認スポーツ指導者処分基準別表によれば、暴力をふるったが「被害者が傷害を負わなかった」場合には「資格停止6か月」が基準とされ、被害者が多数であることは加重要素であるとされています。

 

3 事件③について

 報道によれば、姫路市の私立高校のソフトボール部で顧問の教諭が、女子部員がユニフォームを忘れてきたことに腹を立て、平手で左のほおを殴り、同部員は顎が外れた外傷性開口障害と診断され、なお、教諭は事前に女子部員の保護者と電話で連絡を取り「たたきますよ」などと話していたとのことです。

 本件は顎が外れるほどの力で殴ったという点で、世間の耳目を集めました。女子部員に傷害を負わせているので、刑法上の傷害罪に該当し、学校教育法上の体罰にも該当し、その悪質性は言うまでもありません。

 本件で気になるのは、教諭が保護者に電話で「たたきますよ」などと予告することで、免罪されると考えていたのではないかという点です。本欄でも過去に書きましたが、法的に、保護者や被害者である部員が承諾していたといえるのか、仮に承諾していたとしても違法性が阻却されるのかは問題とはなり得ます。しかし、本件においては承諾をしていたとは評価できないでしょうし、仮に承諾があったとしても違法性を阻却するとはいえないでしょう。

 

4 事件➃について

 報道によれば、福岡県福岡市の私立高校剣道部の女子部員(当時15歳)が自殺(2020年)したことをめぐり、学校側が元顧問からの暴言や暴力が自殺の原因だったことを認め、遺族との間で和解が成立したとのことです。

 本件では、元顧問の行為と女子部員の自殺との因果関係を学校側が認めたことに注目すべきでしょう。法的に、当該行為と自殺との因果関係が争われると、その立証が困難となることもあり得るため、学校側が因果関係を認めたことは評価できると考えます。

 さらに注目すべきは、自殺の原因となった元顧問の行為の中に、暴力のみならず暴言も含まれている点です。本欄でも繰り返し書いてきたように、ときに暴言が与える心の傷は、暴力が与える心身の傷よりも、深く重いことも少なくありません。私は、大学でスポーツ法の講義を担当しており、指導者による暴力や暴言を受けた経験を有する学生に聞いてみると、暴力はその場限りということもあり、暴言の方がショックを受け、その言葉を鮮明に覚えているという感想も多々聞くところです。もっとも、あまりに多く暴言を吐かれ過ぎて、何を言われても感じず麻痺してしまい、何を言われたのか殆ど覚えていないという感想も多く、まだまだ問題解決には程遠いと感じます。

 

5 おわりに

 桜宮高校バスケットボール部キャプテン自死事件、および日本女子柔道代表選手暴力等告発事件からちょうど10年を経過して、改めて、指摘しておきたいのは、スポーツ界における指導者の暴力と暴言とでは暴言の割合が増加していること、暴力を振るう指導者は確信犯型(暴力が子どものためになると確信しているタイプ)ではなく指導方法不明型(暴力はいけないと分かっているが暴力を使わない指導方法が分からないタイプ)が多数を占めること、未だに保護者が暴力や暴言を加える指導者を擁護する風潮があることです。

 最後に、暴力や暴言を加える指導者を擁護する保護者についてコメントしておきます。実際に事件を扱っていると、このような保護者がいるため、なかなか指導者の暴力や暴言を告発できないことも少なくありません。信じがたいことですが、自分の子どもが暴力や暴言を受けているのに指導者を擁護することもあります。実際にそのような保護者に話を聞いてみると、確かに暴力等をふるう指導者を擁護することはおかしなことであるが、渦中にいるとそのことに気付けなかったというようなことがあるようです。

 問題の所在は、指導者だけにあるのではなく、社会全体(保護者や被害者を含めた)にもあるのであり、腹を括って取り組むようにしない限り、この問題は解決しないように思います。

 

 

 

記事一覧