弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

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スポーツ団体の利益相反について③

1 はじめに

これまで、利益相反や利益相反取引の定義、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(以下「一般法人法」)に関し「スポーツ団体の利益相反について①」において、「公益認定社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下「公益認定法」)に関し「スポーツ団体の利益相反について②」において、整理をしてきました。

今回は、前2回を受けて、中央競技団体(NF)向けスポーツ団体ガバナンスコード(GC)について、みていきたいと思います。

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GC原則8 利益相反を適切に管理すべきである。

(1) 役職員、選手、指導者等の関連当事者とNFとの間に生じ得る利益相反を適切に管理すること

(2) 利益相反ポリシーを作成すること

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GC原則8(GC8)については上記のとおりです。

先ず、GC8(1)において、利益相反の管理の対象者として、理事のみならず、監事、職員、指導者等の関連当事者が挙げられている点に着目すべきでしょう。

次に、GC8は、利益相反の「利益」の内容として、経済的な利益のみならず、大会への出場資格の付与、団体登録、各種選手の選考まで含まれるようにも読める点にも注意する必要があります。

さらに、GC8(2)における利益相反ポリシーの作成に当たっては、「利益相反取引該当性」及び「利益相反の承認における判断基準」という2つの基準を策定するように求めている点にも着目する必要があります。

 

2 管理すべき対象者の範囲

GC8(1)は、「役職員、選手、指導者等の関連当事者」とNFとの間に生じ得る利益相反を適切に管理することとしています。

また、GC8「補足説明」において、「利益相反取引該当性を定めるに当たっては、理事が所属する他の企業・団体、理事の近親者等の形式的な基準に加えて、理事が懇意とする取引先等、当該NFにおいて想定される『利益相反的関係』を有する者(関連当事者)についても、実情に照らし適切に該当範囲に含めることが望まれる。」とされています。

このように「関連当事者」については、「理事が懇意とする取引先」という例が示されており、その該当性について実質的に判断するよう求めている一方で、「基準の明確性が損なわれないように留意することが望まれる」ともされています。

「関連当事者」は、前回検討した公益認定法における特別利益供与禁止の対象者と重なり合いが多いといえるものの、特別利益供与禁止の対象者については、法律、施行規則、施行令で詳細かつ厳格に決められていること(「スポーツ団体の利益相反について②」参照)と比べれば、相当曖昧であるといわざるを得ません。

 

3 管理の対象となる利益相反

一般法人法の利益相反の規制が経済的な利益相反に限られていることは、「スポーツ団体の利益相反について①」で検討してきたとおりですが、GC8が求める「利益相反」が利益相反取引に限られているのかは明確ではありません。

というのも、GC8「求められる理由」の冒頭で、NFが有する重大な権限として「大会への出場資格の付与、団体登録、代表の選手選考と始めとする各種選手の選考等」を挙げ、これらの権限の適正な行使を担保し、国民・社会からの信頼を醸成するために、利益相反への適切な対応が重要であるとしており、これらの記載から、経済的利益に限らず「大会への出場資格の付与、団体登録、代表の選手選考と始めとする各種選手の選考等」をも含めた利益に関し管理することを求めているようにも読めるからです。

これらを「利益相反」という概念で捉えて、利益相反ポリシーに基づき管理すべきものなのか、検討する必要があります。

 

4 利益相反取引該当性基準と利益相反承認判断基準

GC8「補足説明」において、「利益相反ポリシーの作成に当たっては、どのような取引が利益相反関係に該当するのか(利益相反取引該当性)、どのような価値判断に基づいて利益相反取引の妥当性を検討すべきか(利益相反の承認における判断基準)について、当該団体の実情を踏まえ、現実に生じ得る具体的な例を想定して、可能な限り分かりやすい基準を策定することが望まれる。」とされています。

ここから分かることは、利益相反ポリシーにおいては、「利益相反取引」について、承認が得れれば取引が許容されるという点と、利益相反を適切に管理するために、利益相反取引該当性判断の段階と利益相反承認判断の段階の2段階で基準を設定するよう求めている点にあります。

 

5 法律による規制とGC8

前々回「スポーツ団体の利益相反について①」において検討した一般法人法と前回「スポーツ団体の利益相反について②」において検討した公益認定法と、上述したGC8について整理すると以下のようになります。

一般法人法 公益認定法 GC8
内容 利益相反取引規制 特別利益供与禁止 利益相反*の管理
管理対象者 理事 公益認定法特別利益供与
禁止対象者
関連当事者
管理方法 理事会承認あれば許容 特別利益供与の禁止 ●利益相反取引**:
理事会承認あれば許容
●その他の利益相反***:
禁止or承認あれば許容?

註*)GCが管理すべき利益相反は、利益相反取引のみか、その他の利益相反(代表選考等)を含むのか

註**)GCにおいて管理すべき利益相反取引の対象者は理事のみか、関連当事者か

註***)その他の利益相反の管理方法は、理事会承認により許容するか、禁止か

 

6 GC8に関する検討(私見)

以下、註*、**、***に関し、以下、若干の検討を加えます。

(1) GC8が求める管理すべき「利益相反」(註*、註***)

たとえば、NFにおいて、代表選考基準を作成する場合や代表選考基準に基づいて代表選考をする場合(特にNFの裁量がある場合)に、代表選考基準作成権者や代表決定権者に選考の対象者が入っていたり、当人でなくとも代表選考される人の妻や親(これらを「利害関係人」といいます)が入っていたりすると、それらの人は公平・公正な判断ができないと考えられることから、適切ではないといえるでしょう。

このように、NFが利益相反取引以外の利益相反(代表選考等)を管理しなければならないことは間違いがありませんが、これらを利益相反ポリシーで管理するのか否かは、NFの判断によると考えられます。個別の規程、代表選考でいえば代表選考規程の中で、利害関係人を代表選考手続に関わらせないといった定めを置くことも一案だと考えます(註*)。

なお、利益相反取引以外の利益相反については、理事会の承認により許容されるとするのではなく、公平性・公正性の観点から、一律に利害関係人の関与を禁ずるのが妥当であると考えます(註***)。

 

(2) 利益相反取引規制の対象者(註**)

GC8によれば、利益相反取引規制の対象者を理事以外の関連当事者にも広げるのか明らかではありませんが、利益相反取引規制の対象者は理事に限定し、利益相反取引に関し、予め策定した判断基準に則り理事会が承認の判断をすれば当該取引は許容されるものとするのが妥当と考えます。

これは一般法人法の規制と同じですが、理事会の承認の基準として、GC8の求める2つの基準により判断するというものです。

利益相反取引規制の対象者を理事に限定するのは、理事はNFの意思決定機関である理事会のメンバーであり、議決権を有するのであり、理事以外の議決権を有しない職員やNF関係者にまで対象者を広げる必要性が少ないと考えられるからです。

たとえば、職員が代表取締役を務める会社とNFが取引をするとしても、NFの職員はNFの意思決定について原則として関与できない以上、利益相反取引規制の対象にする必要がないのではないでしょうか。例外的に、当該取引について権限を有する職員の場合には、職務に関する規程などで利害関係がある職員は当該取引に関わることができない旨の定めをおくことで足りると考えます。

 

7 おわりに

これまでスポーツ団体においては、当該競技のいわゆる身内だけで運営されることも多く、利益相反という概念に対する意識が希薄であったことは否めない以上、利益相反を管理すべきことには異論はありません。

しかし、実際にGC8に基づき利益相反を管理しようとすると、様々な疑問や問題点が生じ、NFとしても困っているのが現状であると思います。

今後、GC8も改定されるものと思われますが、3回にわたって利益相反について検討し、その上で、解釈上問題になりそうな点について私見を述べさせていただきました。

 

【参考】

・「スポーツ団体の利益相反について①

・「スポーツ団体の利益相反について②

 

 

 

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